「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞から思う命の心理学(新潟青陵大学大学院碓井真史)
心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/心理学入門/いのちの心理学
「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞から思う
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子どもの死生観・思春期の死生観・祖父母の役割・人生の宿題・命のつながり
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
命について考える心理学エッセーTweet映画『おくりびと』『つみきのいえ』アカデミー賞受賞
映画『おくりびと 』(2009年第81回アカデミー賞外国語映画賞)は、ご遺体を棺に納める納棺師の物語です。ただし、ただ暗い映画ではなくてユーモアのある映画ですが、でも普段あまり考えようとしない死の問題、命の問題を多くの人々に考えさせてくれました。
映画『つみきのいえ』(2009年第81回アカデミー賞短編アニメーション賞)は、家を上へと建て増し続け、まるで「つみき」のように見える家に住むおじいさんと家族の物語です。「これ以上に深く、優しく、そして切ない物語は 未だ出会ったことがありません。」と語るカスタマー(amazon)もいるほど、魂を震わせる秀作アニメです。
同時に2つの映画がアカデミー賞を受賞したという快挙です。そして2つの映画は、私たちに命と死と人生について考えるきっかけを与えてくれました。
小さな子どもは、すべてのものに命があると感じるアニミズムの世界に住んでいます。まるで童話の世界ですね。それがだんだん成長するに従って、動いているものは命があるとかんじるようになり、さらに生きているものと、生きていないものを区別できるようになります。幼稚園児でもおもちゃの自動車(物)と犬(生きている動物)とは違うものだと理解しているでしょう。
そうはいっても、死の特徴である「不可逆性」(死んだら生きかえらない)、「普遍性」(すべての者が必ず死ぬ)、「不動性」(死んだら動かない)を本当に理解するのは、小学校中学年ごろになってからであり、そのころになってようやく死は誰にとっても避けられないものと受け止められるようになります。
(「本当に」と書きましたが、さらに深く本当に理解するのは、思春期青年期を待たなくてはならないかもしれません。いえ、本当に実感するのはさらに年月が必要かもしれません。小学生が小さなきっかけで突然自殺してしまうことがあるのは、死の意味を理解していないことも理由の一つと考えられます。)
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祖父母の存在は、子ども(孫)にとって、すばらしいものです。無条件で愛してくれる祖父母が、幼い子どもたちの心に安定感を与えます。孫が幼いころは、祖父母もまだ元気で一緒に遊園地や動物園にもいけるかもしれません。
しかし、次第に祖父母も年をとります。以前のように孫と元気に遊べません。気落ちされる祖父母の方々もいらっしゃるでしょうが、しかし大丈夫です。祖父母が年を取り始めたころ、孫がだんだんおおきくなります。おじいちゃんの荷物を持つ孫、おばあちゃんの手を引く孫。すばらしいです。
まだまだ元気だと思っても、孫が手伝ってくれるというのら、素直にお願いしましょう。孫たちは、祖父母を助けることを通して、心も体も成長します。優しさ、強さが育っていきます。
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けれど、いつか別れが来ます。
多くの子供たちが思春期を迎えるころ、祖父母の死を体験します。悲しいけれど、しかし「親が死に、子が死に、そして孫が死に」と順番に亡くなってくのはめでたいことだそうです(一休宗純和尚)。
まだ若い人が亡くなるのは悲しすぎますが、おじいちゃん、おばあちゃんの死です。年寄りなら死んでもいいのかといえば、そうではありません。家族にしてみればたとえ100まで生きたとしても、あと半年いきてほしいなどと思うものです。
しかし、そうはいっても、とても悲しく淋しいけれども、70、80過ぎまで生き、子を育て孫の面倒まで見てきたのですから、大往生です。悲しいけれども、葬儀では悲しみを抑えて、笑顔で思い出話を語り合ったりもするでしょう。
祖父母の死は、おじいちゃんとおばああちゃんが孫に残す最後のプレゼントです。
孫たちは、みんなで一緒に悲しみ、みんなで一緒に思い出に浸りながら、思春期の多感な心で、死について考え、人生について学ぶのです。
おじいいちゃん、おばああちゃんの人生はすばらしかった。そしてすばらしい最期だったと感じられる孫たちは、なんてしあわせなのでしょう。
(孫が思春期前の幼いうちに祖父母がなくなった場合には、たとえば親が「おじいちゃん(おばあちゃん)はお前のことが大好きだったんだよ」などと話してあげると良いかもしれません)
子どもたちにとって、日常生活の中で死を体験することは大切です。ただし、孤独にさせてはいけません。
家族がなくなれば、遺族は動揺します。うっかりすると、ベッドサイドや祭儀場で、子どもが一人ぼっちになってしまうことがあります。これではいけません。みんなで悲しみを共有すること、不安に感じている子どもをしっかりと守りながら、みんなで死という変化を受け入れていく必要があります。
命を大切にしない子どもや青少年がいます。もっと命や人生を大事にしろと説教されます。しかし、命が輝いていないとき、それを大事にすることはできません。
祖父母も親も命を輝かせ、充実した人生を送り、その輝く命を子どもに引き継ぐのです。
命が輝いている時、命はつながっていると感じる時、人は命を大切にできます。
孤独感が、さまざまな心や行動の問題のもとになります(たとえば青少年凶悪犯は孤独と絶望感に押しつぶされた人々ですし、自殺は孤独感の中で実行されます)。
生物としてただ偶然生きているのではなく、人として生かされていると感じる時、自分は一人ではないし、生きる意味があると感じることができるとき、人は孤独感と絶望と虚無感に打ち勝つことができるのでしょう。
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平気で「いのち」を奪う子どもたち(命の輝きと少年犯罪)
人生には、それぞれの年齢で乗り越えるべき「発達課題」、人生の宿題があります。生まれた時には、無条件の愛で包まれて「基本的信頼感」を身につける必要があります。中高年の人生の宿題は、「育てる喜び」を身につけることです。
自分はだんだん衰えていくけれども、自分が育んできた子ども孫、後輩たちは、どんどん成長していくと感じることができる時、人生は決して停滞しません。年配者と子ども若者は、互いにその心を支えあっているといえるでしょう。
人生の最期には、「人生をまとめあげる」という宿題があります。いろいろあったけれども、いい人生だったと思えることです。そのためには、幼いころから、思春期青年期、壮年期を通して、命を輝かせ人生の階段をひとつずつ登っていく必要があります。
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発達心理学1.乳幼児の心理〜児童期の心理(エリクソンの発達課題)
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(日本人と遺体・遺骨、物は壊れ人は死ぬ、僕の命は誰のもの
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『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
『葉っぱのフレディ―いのちの旅 』(41) 私の大好きな絵本の一つ。時々学生の前で朗読します。
春に生まれた葉っぱのフレディが、自分という存在に気づき、成長し、「葉っぱに生まれてよかったな」と思い、「葉っぱの仕事」を終えて冬に土へとかえっていくまでの物語。死を怖がるフレディに親友のダニエルが答える。「変化するって自然な事なんだ…死ぬというのも 変わることの1つなのだよ」。(商品説明より)『納棺夫日記』 (文春文庫) アカデミー賞映画『おくりびと』のもとになった本(8)
"死"と向い合うことは、"生"を考えること。長年、納棺の仕事に取り組んだ筆者が育んできた詩心と哲学を澄明な文で綴る"生命の本"(出版社/著者からの内容紹介)
『定本納棺夫日記 2版 』(2)『おくりびと [DVD] 』2009年3月18日発売(予約受付中)(18)アカデミー賞受賞作品
納棺師─それは、悲しいはずのお別れを、やさしい愛情で満たしてくれるひと。 (商品説明より)『つみきのいえ [DVD] 』アカデミー賞受賞作品
〜泣けて、切なくて、優しいショートストーリー。〜ハートウォーミングアニメ。上へ上へと建て増しを続けてきた“積み木”のような家に住むおじいさんの家族との思い出の物語。『マイ・ライフ [DVD] 』
末期がんで死の近づいた主人公が、まだ見ぬ我が子へのビデオレターを作りながら、妻とともに父親との葛藤を解決し、輝くような死を迎えます。オススメです。買うまでもないなら、
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BOOKS:マックス・ルケード著 『たいせつなきみ 』(絵本) いのちのことば社
優れた人には金のシール、だめな人には灰色シールをくっつけあって暮らしている世界。ダメ印シールばかりだった主人公が、本当の自分の価値に気付きます。君もかけがえのない存在なのだとわかる絵本です。私はあちこちの講演会で朗読しています。
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秋葉原通り魔事件の青年は、県下一の高校出身でした。学力を高めるだけでなく、愛される親になるための方法について考えます。親を愛せることが、子どもにとっても何よりの幸せだからです。
ウェブマスター碓井真史著 『人間関係がうまくいく 図解 正しい嘘の使い』
愛の押し売りは子どもを苦しめます。理屈だけでは、子どもは納得しません。あなたのことが一番好きだと、上手に子どもに伝える方法について考えましょう。
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