子どもに命の大切さをどう教えるか。
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子どもの死生観と教育日本人の死生観の中で、子どもに死と命をどう教えるか |
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
命について考える心理学エッセー
1死生観とは
死生観とは、死についての考え方でです。また生と死についての考え方でです。命をどのように考えるかによって、死へ考え方も変わってきます。命と死についてどのように考えるかちう死生観は、その人の人生のあり方をも左右するでしょう。
2子どもの死生観の発達
(1)子どもにとっての命の理解
大人は、当然のこととして生きている生物と生きていない無生物とを分けて考えます。そして、命ある者はすべていつかは死に、死んでしまった者はもう動かないし、もう生き返らないとわかっていいます。
そのような理解に基づいて、死についての自分なりの考え方を持ちます。しかし、子どもがこのような死についての知識と感覚を持つまでには成長を待たなくてはなりません。
幼児期の子どもは、アニミズム的な世界観を持っています。つまり、「すべてのものに命がある」と感じています。その段階からはじまって、成長に伴い、「動くものには命がある」と考えるようになります。その次には、「自分の力で動くものには命がある」と理解の仕方が変化していきます。そして最後に「生物だけに命がある」とわかるようになります。子ども達は、児童期になって、ようやく様々なものに命を感じてしまうアニミズム的な考えから離れていくことができます。
(2)子どもにとっての死の理解
2歳児でも「生きてる」とか「死ぬ」とかいう言葉は使います。死を感じ取ることができます。ペットが死んで涙ぐむこともあるでしょう。しかし、そうだとしても、大人のように死を理解しているわけではありません。
この段階では、死と、単に「見えない」「動かない」こととの区別すら十分にできていません。
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もう少し大きくなって幼児期になっても、死は「一時的な離別」(どっかへ行ってしまう)や「眠り」(そのうちに目覚める)との区別が不十分です。
ですから、幼児でも家族が死んで悲しみはしますが、本当の死の意味を理解しているわけではありません。それで、たくさんの人が集まる葬儀の場で興奮して楽しくなり、笑顔で遊んだりするのであるのです。
死の意味がわからず遊ぶ幼児を見て、かえって悲しみが増すと感じる人もいますが、子どもを叱りつけて、心を傷つけてしまう大人もいます。大人から見れば不謹慎なのですが、死の意味を理解していない幼児にとっては仕方ないことなのです。
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児童期の死と命の理解
児童期になるころに、やっと死の「不可逆性」(死んだら生きかえらない)を理解することができるようになり、死を深く悲しむことができるようになります。しかし、まだ死の「普遍性」(すべての者が必ず死ぬ)や「不動性」(死んだら動かない)の理解が足りず、死は特別な病気や事故によって起こると考えたり、自分には死は訪れないと感じる場合もあります。
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小学校中学年ごろになって、ようやく死の、不可逆性、不可避性(普遍性)、不動性を理解し、死は誰にとっても避けられないものと受け止められるようになります。
それでも、すべての子どもが完全にそれを理解するわけではなく、小学生になってもアニミズム的な感覚が残っていたり、死んでも生き返ることがあると考えることもあります。十分に死を理解するには、青年期までかかることになるのです。
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思春期の死と命の理解
思春期のころには、多くの子どもたちが何らかの形で、死や命について考えるきっかけとなるような出来事に出会うでしょう。この体験をどのように活かしていくか、またこの時期に死と命に関するどのような教育をするかが、死生観の健全な発達のために特に重要です。
死生観の発達に、テレビゲームなどのバーチャルリアリティーが悪影響を及ぼすとの主張はよく聞かれます。しかし、それを実証するデータは今のところほとんどありません。ただ、テレビゲームに夢中になるあまり、他の遊びや様々な体験をする機会が減るとすれば、それは当然死生観の正常な発達に影響を与えることはあるでしょう。
3指導上の留意点(子どもに死と命をどう教えるか)
まず、死と命の指導に関しても、レディネス(学習するための心や体の準備)が重要です。死についての理解度を見ながら指導しなくてはなりません。
死への理解が不十分な小学校低学年の時期に、死の現実を突きつけることは、子どもにとって辛い体験になってしまうこともあるでしょう。子どもが死の現実に直面しなければならないときには、子どもの心に不安がいっぱいにならないように、守ってあげることが必要です。
しかし、だからといって死の現実から子どもを遠ざけすぎるのは、せっかくの教育の機会を失うことになってしまいます。
たとえば、祖父母の死は悲しいことですが、その事実を通し、また死を悲しみ、故人を懐かしむ大人たちを見ることで、子どもは死を理解していくでしょう。そして、死を学ぶことは、命を学ぶことにつながっていきます。家族の死を乗り越えることができれば、それは、最高のいのち教育です。
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日常の生活の中で、死と生を体験し学んでいくことが、死生観の基礎となるでしょう。ただ、単純にペットの死を体験させたり、単なる見学のように火葬場の中を見せたりしても、それは死と命の教育にはなりません。そんなことをしても、ただ不安にさせるだけの場合すらあるでしょう。
そうではなくて、死を仲間や大人と共に体験し、同じ思いを分かち合っていくことこそが、その体験に良い意味をもたせることになるのです。
ペットの死や、身近な人の死という現実をごまかさない。ただし大人が忙しさで子どものことをかまってあげられなかったり、孤独感を感じさせたりすることなく、子どもに寄り添って、一緒になって死という現実を体験し、悲しみ、死を受け入れ、そして乗り越えていくのです。
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学校教育の中で、適切な指導を受けつつ、様々な死と命の体験をしたり、国語や道徳なのかで、死と命に関する作品を深く味わったりすることは、大きな意味があるでしょう。ただし、その土台には、日常生活での死と命の体験がなければなりません。また、家庭や地域で得た死と命に関する知識と体験を、学校教育を通して整理し、理解していくことも、大切なことでしょう。
命の大切さをお説教するだけで終わってはなりません。教材の工夫だけで終わってはなりません。子どもと共に悩み、考え、死と命の問題を共有していく中で、子ども達は死と命の意味を実感として感じとっていくことでしょう。
4子どもと死:いくつかの問題、子どもを守るために
死については家庭の中で多くのことを学ぶべきですが、今その家庭の教育力が落ちています。学校が果たすべき役割は大きいでしょう。
何らかの死と対面したとき、人はショックを受け呆然とします。次に、混乱、怒り、苦悩、攻撃、身体の不調、逸脱行動などが見られます。このような過程は誰しもが通るところです。不安定になっている人を支えるために、周囲の理解と受容が大切です。
子どもの場合には、特に感情の表現能力が低いために自分の感情を十分に出すことができません。死の不安と恐怖から自分を守るために感情を抑圧し、まるで何事もなかったかのように振舞うことすらあります。感情が表現される代わりに、体の症状となって表れることも多いでしょう。
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さらに、愛する者との「分離」(入院、離婚、死別など)を体験するとき、子どもはしばしばその分離と自分とを関連付けて考えてしまいます。たとえば、自分が悪い子だったからお父さんがいなくなったというように考え、自分を責めることもあります。
あるいは、あたかも故人が意図的に去っていたかのように感じ、どうして自分を残していなくなってしまったのかと、怒りと悲しみの入り混じった感情で傷つき苦しむこともあります。
このような場合には、大人の適切な介入が必要です。子どもの誤解を解き、感情を表現できるように援助することが必要です。子どもを持つ家族の中にには、入院や葬儀の準備に忙殺され、家族の死でショックを受けている子どもを守るだけの余裕がない家族もあるます。その中で、ひとり孤独に泣いている子どもがいます。
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あるいは、子どもに「死」を見せないようにするために、病状の悪化を隠し続けていたり、葬儀に参加させなかったりすることもあります。子どもにとっては、突然、死と直面することになってしまいます。これでは、死をきちんと悲しむことで受け入れていく「グリーフワーク(喪の作業)」の妨げにもなりかねません。
5子どもと命(子どもに命の大切さをどう教えるか)
生きている実感がないと語る少年達がいます。リストカットをしたり、万引きをしたりしているときだけ、生きている実感があると語る少年もいます。命に関する感覚がにぶくなっている子どもたちがいます。
自殺の危険性が高い子どもの背景には、自殺の危険性が高い親がいると言います。青少年の自殺行動は家族内の混乱と密接に関連している場合が多いのです。少年達が、親から意識的無意識定期に邪魔者扱いをされているケースも少なくありません。
自分の命を価値ある大切なものと感じられるようになるためには、他者から愛され認められることが必要である。特に重要な他者である親や教師の態度はとても大切です。さらに、たとえば学校行事などを通して、自分の役割を果たし、目標を成し遂げることで、自分の価値を感じることができるようになるでしょう。
このようにして、健全な死生観を発達させ、自分の命の大切さを知り、命を輝かせている子どもたちが、人の命をも大切にすることができます。周囲の人間から大切に育てられた子ども達は、周囲の人間を大切に思えます。社会から守られて育った子ども達は、社会を守ることができるのです。
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補足(2009.2.24)
*欧米では死期の近づいた病人のもとへ牧師(プロテスタント)や神父(カトリック)が訪れるのは、普通のことですが、日本では病院にお坊さんが袈裟(けさ)を着て現れたら、みんなびっくりするでしょう。日本には、死をタブー視する文化があるようです。特に子どもから死を遠ざけようとする面があるかもしれません。このような日本人の死生観の中で、どのように子どもの死生観を健全に育てていくのかが、課題でしょう。
*私が子どものころ、母の友人の子どもである小学生の女の子が脳腫瘍にかかりました。死期が近づき、大人たちも動揺していたようです。この子は、キリスト教会の日曜学校に通っていました。ある日、牧師夫妻が見舞に来たそうです。本人も死が近いことはうすうす感じていたものの、大人たちはその問題をどう扱ったらよいのか、考えあぐねている時でした。そんなとき、牧師がやさしく語ったそうです。
「○○ちゃん。天国でイエス様が待っているからね。」
その場にいあわせた母は、本当にびっくりしたと言っていました。けれども、「イエス様がまっているからね」と言われた小さな女の子は、穏やかな表情で、でも力強く、うなずいていたそうです。
「天国」といったことは、信じていない人が気休めに語っても効果がありません。時には逆効果になることさえ考えられます。しかし、信じている人にとっては、大きな力になるでしょう。
後日談です。
女の子はなくなりました。とても、とても良い子でした。すばらしい葬儀になりました。告別式が終わり、遺体は火葬場にいきました。火葬場で火葬にする時にも、実は料金によって差があります。火葬にする温度などが違うわけもありませんが、装飾などが違うようです。
女の子は、一番安い場所で火葬されることになっていました。火葬のために棺が運ばれてきて、今まさに火葬されようとしたとき、ずっとお世話してくださっていた葬儀屋さんが、
「ちょっと、待った!」 と声をかけました。
「この子を、ここで火葬にはできない。私が責任を持つから」といって、一番高い火葬場所へと女の子を運んで行ったそうです。 お仕事で行なっている葬儀屋さんが、こんなことをするなんて、ちょっと信じがたいことですが、母から聞いた話です。
後日談その2
母は72歳でなくなりました。亡くなる数日前に、クリスチャンになりました。末期のガンでしたが、一番そばで見ていた妹が、妹はクリスチャンではないのですが、信仰をもったあとの母は、前から元気でユーモアたっぷりの母でしたが、死を前にしてもう一段おだやかになったような気がすると、言っていました。
この前後の母の様子と、教会で行われた葬儀を通して、父は出棺の時、「さようなら」ではなくて「いってらっしゃい」だなとかたり、「いってらっしゃい」の声で母を送り出しました。夫と子どもたちと孫たちと親戚たちの「いってらっしゃい」の見送りの声の中、母は旅立っていきました。
このページ(補足の前の部分)のコンテンツは、教職研修総合特集・読本シリーズ166『命を大切にする教育をどう進めるか:児童生徒の問題行動重点プログラムの検討』 有村久晴編集 教育開発研究所 2005.5 に掲載された原稿を加筆修正したものです。
『葉っぱのフレディ―いのちの旅 』(41) 私の大好きな絵本の一つ。時々学生の前で朗読します。
春に生まれた葉っぱのフレディが、自分という存在に気づき、成長し、「葉っぱに生まれてよかったな」と思い、「葉っぱの仕事」を終えて冬に土へとかえっていくまでの物語。死を怖がるフレディに親友のダニエルが答える。「変化するって自然な事なんだ…死ぬというのも 変わることの1つなのだよ」。(商品説明より)『納棺夫日記』 (文春文庫) アカデミー賞映画『おくりびと』のもとになった本(8)
"死"と向い合うことは、"生"を考えること。長年、納棺の仕事に取り組んだ筆者が育んできた詩心と哲学を澄明な文で綴る"生命の本"(出版社/著者からの内容紹介)
『定本納棺夫日記 2版 』(2)『おくりびと [DVD] 』2009年3月18日発売(予約受付中)(18)アカデミー賞受賞作品
納棺師─それは、悲しいはずのお別れを、やさしい愛情で満たしてくれるひと。 (商品説明より)『つみきのいえ [DVD] 』アカデミー賞受賞作品
〜泣けて、切なくて、優しいショートストーリー。〜ハートウォーミングアニメ。上へ上へと建て増しを続けてきた“積み木”のような家に住むおじいさんの家族との思い出の物語。
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