新潟心理学会第34回談話会(97.5.31)
新潟青陵女子短期大学福祉心理学科
(2008年現在新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科)
碓井真史
内発的動機づけの概念は、伝統的な動因低減理論に対するアンチテーゼとして提唱されたものである。これまで扱ってきたような、外的報酬に基づく動機を「外発的動機づけ」とよび、これに対して、明白な外的報酬が無い場面の動機を「内発的動機づけ」と呼ぶようになった。
特に1970年代の初めに、Deciが外的報酬による内発的動機づけの低下を実証したことにより、多くの後続研究が生まれることになった。彼は、内発的動機づけとは、「有能感」と「自己決定感」への要求に基づく動機だと理論化している。
もちろん、外的報酬が内発的動機づけをいつも低下させるわけではない。外的報酬の「情報的側面」が強く認知されれて有能感が上がると、内発的動機づけは高まる。一方、外的報酬の「制御的側面」が強く認知されて自己決定感が低下すれば、内発的動機づけも低下する。
碓井は、以下のことを実験によって実証している。1)金銭報酬は、内発的動機づけを低下させる。2)ただし、報酬提供者が、その報酬によって被験者を制御する意志はないことを伝えれば、内発的動機づけは低下しない。3)一般に言語報酬は内発的動機づけを高めるが、極端な言語報酬の使用は、女子の内発的動機づけを低下させることがある。
Deciは、しだいに自己決定感、さらに自律性の重要性を強調し始めている。碓井は、自己決定感がなければ、自己有能感があっても内発的動機づけは高まらないことを実験によって示し、彼の仮説を実証している。
さらに彼は、自己決定感、有能感に続く第3の要因として、interpersonal relatedness (対人交流、重要な他者からの受容感)を提唱している。これらの考えによって、病理的なものも含め人間行動全般を説明しようとしている。また最近では、内発的動機づけと外発的動機づけの中間的な動機や、自己の心理的圧力による内部制御的な状態など、新しい考えを示している。
碓井は、対人交流によって内発的動機づけが高まることを示唆する実験を行っている。また、外的報酬の効果も含めて、内発的動機づけの増減には対人的文脈が重要であることを示唆する実験も行っている。
しだいに理論が複雑化するのに伴い、実験研究の数は以前と比較して減少している。しかし、内発的動機づけへの関心が薄れたわけではなく、学会でシンポジウム等が開催されると多くの人が集まっている。 日本では、現在、教育心理学者による教育評価などに関する研究が多く、そこでは、内発的動機づけの概念を学習意欲や知的好奇心に限って使用しようという主張もある。
しかしながら、碓井は、より社会的な行動への適用を主張して、援助行動等の向社会的行動にも、内発的動機づけの理論が適用できることを示す実験を行っている。これは、近年話題になっている「有償ボランティア」の問題などにも関わるものである。
また、内発的動機づけ理論が重視する自律と自己決定は、社会福祉の分野でも尊重される概念であり、福祉心理学的な研究や、臨床的な研究への可能性もあるだろう。
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