新潟青陵大(碓井真史)/こころの散歩道/犯罪心理学/毒物事件/奈良毒殺〔薬殺)未遂事件
続報を聞いて7.19〜23
少しだけ加筆
奈良県内の病院に入院中の高校1年の長女に薬物を混入したお茶を飲ませて殺そうとしたとして、母親である准看護婦(43)を殺人未遂容疑で逮捕(2000.7.16)。長女には、約3000万円の保険金がかけられていた。
また、97年には当時9歳の次女と15歳の長男が死亡し、容疑者は保険金2020万円を受け取っていた。容疑者は「長女を殺そうと思った」と供述。さらに、二女と長男の死亡に関与したこともほのめかしているという。(2000.7.17)
毒物による、長女殺人未遂。もしかすると、他の二人の子どもを毒殺したのも、この母親かもしれません。和歌山に続いて、また連続保険金毒殺事件でしょうか。保険金殺人を防ぐ手だてはないのでしょうか。
ただ、金だけが目的だったのか、他にも犯行動機があったのか。これからの捜査を見ていかなくてはわかりません。
命はお金では買えないし、親子の愛は、何よりも強いはずなのですが......。人の心はときどき狂ってしまうのでしょうか。
人を殺したいと思う。憎しみであれ、金目当てであれ、この人に死んでもらいたいと思う。腕力のとても強い人は、力づくで襲いかかって殺すかもしれません。特別な経路でピストルを手に入れられる人は、銃殺を試みるでしょう。殺し屋を雇えれば一番いいかもしれません。
しかし、普通の人はそんなことはできません。そんなことができない人間、犯罪者の中でも強者とは言えない人たちが使う方法が毒殺です。
また毒殺は、刺殺や絞殺などとは違って、相手の返り血を浴びたり、断末魔の顔を見ずに殺すことができます。人を殺すという実感をあまり感じないで殺せる方法です。事前に仕込んでおけば、死亡する現場にいなくても実行することができます。
このようなわけで、肉体的、経済的、いろいろな面で強くない人が、こっそりとできるのが、毒物犯罪です。
ただし、物語に出てくるような、完全犯罪となるような毒物がそう簡単にあるわけではありません。
(今回の事件では、女性という社会的弱者が容疑者ですが、親子という面から見れば、もちろん、子が弱者であり、親は強者でしょう)
毒物犯罪は、「弱者の犯罪」と言われるのと同時に、「女性の犯罪」とも言われます。一般に女性よりも男性の方がずっと多くの殺人を犯しますが、毒殺に限って言えば、世界的に見ても女性の方が多いようです。
男性よりも腕力がないということと、台所に立つことが多いので、毒を混入しやすいということがあるでしょう。
ところで、殺人を犯すことが少ない女性ですが、女性殺人者の特徴の一つが、家族を被害者とすることです。たいていの場合は、嬰児殺人や一家心中の失敗など、悲しい犯罪です。
言うまでもなく、お医者さんや看護婦さんなど、医療に関わる人々のほとんどは善良な人々でしょう。しかし、どんな職業の人も犯罪を犯すことはあります。身近に金属バットがあれば、それが凶器になるように、病院内の人が毒物を使って犯罪を犯すことがときおりあります。
今回の容疑者は准看護婦でした。和歌山の毒カレー事件の被告も、看護学校出身でした。男性医師による毒物犯罪もありますが、看護婦による有名な毒物犯罪もいくつかあります。
1887年オランダでは、看護婦として働いていたヴァン・デン・リンデンが、父、母、3人の子どもを毒殺し、さらに100人以上の患者にヒ素を盛ろうとしました。
イギリスで1991年に起訴された事件では、看護婦のアリットがインシュリンを使って入院していた数十人の子どもを殺害していることがわかりました。
オーストリアの看護婦ワルトラウド・ワグナーは、集中治療室の患者や高齢の患者たち数十名をモルヒネ注射などの方法で殺害しました。
女性と看護職の名誉のために付け加えますが、女性よりも男性の方がずっと多くの凶悪犯罪を犯しています。それから、これは統計的資料があるわけではありませんが、おそらく看護者の犯罪率は、他の職業よりも少ないぐらいでしょう。
(いかにも犯罪とは縁遠いように感じられるので、犯罪者が出てしまったときには普通以上に大きく報道されることはあるでしょう。)
多くの殺人は、たいした計画性もなく、怒りが爆発して殺人にまで至ってしまいます。しかし、殺人の中には、金もうけのための殺人もあります。ビジネス殺人とでも言えるでしょうか。
チャップリンの「殺人狂時代」の中では、主人公がお金持ちの女性を次々と殺していきます。
生命保険を使えば、お金持ちを探さなくても、ビジネス殺人が実行できます。
日本で最初と言われる保険金殺人事件は、毒殺でした。事件は明治45年、日本ではまだ生命保険が目新しかった時代に起ります。犯人は一家の主であり、当時郡会議員をつとめる村の名士です。彼は政治活動を続ける資金を得るために、家族に生命保険をかけ、六年間の間に妻と二人の弟と娘を殺害しました。
犠牲者は病死とみなされ、彼は大金を手に入れます。しかし最後に計画した姪の殺人で、毒が急激に効きすぎて苦しんで死んだために、殺人が発覚してししまいました。金銭を目的とした、計画的で、そして恐ろしいほど冷酷な犯罪でした。
第二次大戦後最初の保険金殺人事件も毒殺です。1929年(昭和24年)の新潟で、保険金目当てに、赤痢で入院中の妻に夫が毒を盛りました。
警察が犯罪統計に「保険金殺人」の項目を作ったのは、1967年(昭和42年)のことでした。昭和40年代に摘発された保険金殺人事件は27件。昭和50年代には一気に79件に増え、昭和60年から平成九年までの13年間でも58件を記録しています。
保険金殺人は、身近な人の命を金に換える犯罪です。恐ろしいのは、毒自体ではなく、金の魔力と、心の弱さでしょう。
保険金詐欺事件の中には、お金目当てに自分の指を切り落とす人もいます。人間はお金に目がくらむと、どんなことでもできてしまうのでしょうか。
強い愛で結ばれているはずの家族。しかし、いつもそうとは限りません。家族が激しく憎しみあうことは珍しくありません。家族だからこそ、他人以上に憎しみ合うのでしょうか。
金がからんで、家族が骨肉の争いを繰り広げることも珍しくありません。保険金目当ての家族殺人もときどき発生してしまいます。
聖書の中に出てくる最初の殺人事件は、アダムとイブの子どもたちによる兄弟殺人です。
家族だからといって、何もしないで愛があふれているわけではありません。一人ひとりの心の傷がいやされ、互いに愛する努力、愛される努力が必要なのだと思います。
(このページの内容の一部は、以前アップした毒物事件に関するページ及び拙著の内容と重複しています)
奈良長女毒殺事件続報を聞いて7.19
HPから本ができました。
『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』主婦の友社2001.9.28発売!
『なぜ、少年は犯罪に走ったのか』KKベストセラーズ ワニのNEW新書
「少女はなぜ逃げなかったか」:続出する特異犯罪の心理学 小学館文庫
長女殺人未遂 長女薬殺未遂 硫酸サルブタモール 天理よろづ相談所病院 坂中容疑者 奈良毒殺未遂 連続保険金殺人 生活苦 肺水腫 実子薬物殺人未遂事件

心療内科医涼子から学ぶ心理学 「私はここにいる、私を愛して!」
などなど