犯罪白書を読むかぎり、少年犯罪は、増加も凶悪化もしていません。
心理学総合案内・こころの散歩道/ニュース/犯罪心理「心の闇と光」
このページは、
「異界にすんでいる子供たち」への
投稿をもとに作成しました。
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*少年犯罪が少しでも減ることを心から願っています*
*神戸の事件や女子高生コンクリート詰め殺人事件や、ホームレスをなぶり殺しにするような、そんなきわめて凶悪で悲惨な犯罪が起きないことを、心から願っています*
さて、いろいろな場所で、「少年犯罪の増加、凶悪化」が話題になります。私自身、マスコミ報道を見ていると、そんな「印象」を受けてしまいます。しかし、今回、実際に犯罪白書(最新の平成9年版)を読んで、その統計を見ると、また違った印象を受けました。
結論を先に言えば、「少年犯罪が増加、凶悪化している」とは、少なくとも一概には言えないのではないかと思います。
白書のグラフを見ると、戦後、少年犯罪増加の3つの山があり、増減をくりかえしながら、全体的にはだんだん増加しているように見えます。(p.113)
しかし、実はこのグラフの昭和45年以前の部分には交通関係業過が含まれています。全体が増加して見えるのは、免許取得者が増え、交通関係で検挙される少年が増えたためです。
白書も「昭和30年代後半以降の増加は、交通関係業過によるところが大きい〜」と述べ、この統計から少年犯罪が増加してきたとは解釈していないようです。
そこで、「交通関係業過を除く刑法犯を基礎として整備された昭和41年以降」のグラフで、少年の検挙人員数を見ると、昭和40年代が15万人前後、その後増加して昭和55〜60年ごろが25万人前後、その後減少して最近はまた15万人前後になっています。(p.114)
この統計から考えると、少年犯罪が特に増加しているようには思えません。
参考までに、島根警察のホームページの「少年非行Q&A」を見ると、そのQ11でも、「確かに最近5年間の傾向をみると、平成7年を底として上昇傾向であるが、戦後からの動きを見ると件数的には大きな問題が生じているとは思えない。〜増加傾向とはいえ、現時点では、これらのピークと比較して、目立った数値ではない。」と解釈しています。
少年犯罪の罪状別動向の「凶悪犯」の統計を見てみましょう(p.116)。
白書では、殺人と強盗を「凶悪犯」としています。
終戦後から「昭和40年代前半までは200人台から400人台で増減を繰り返し」、「40年代後半からおおむね減少傾向を示し」、「50年代に入ると100人を割り」、その後現在まで、「おおむね70人台から90人台で推移」しています。
少年による殺人事件が特に増えているとは思えません。
昭和40年台前半までは、だいたい2,000人から3,000人の間で推移しています。その後減少し、昭和46年には1,000人を割り869人になりました。その後は横ばいでしたが、平成になってからやや増加し、平成8年は1,082人でした。
この数年だけを見ると増加傾向です。ただし、もっと以前からの統計を見ると、近年特に強盗が増えているようには思えません。
犯罪白書の殺人と強盗の統計から考えると、
少年の「凶悪犯」が増えて、少年犯罪が特に凶悪化しているとは思えません。
島根警察のホームページの少年非行Q&AのQ8「触法少年の伸び率は?」でも、過去10年分の統計を示したうえで、「凶悪犯や粗暴犯(の件数)は、特に目立った動きはない。」と解釈しています。
(Q11では、「〜現代で問題となるのは、少年非行の件数ではなく、悪質化である」と述べ、「悪質化」という少年非行の質的変化を問題としているようです。)
このように見てくると、やはり「少年非行が増加、凶悪化している」という主張には、疑問が生じます。
少年による強姦は、昭和40年前後は4,000人前後ですが、その後急減し、52年には1,000人を割り、平成8年は過去最低の227人でした。(p.119)
白書の中の少年非行に関する多くのグラフが、右肩下がりか、あるいは大きな変化がないのに、この項目は明らかに大幅な増加を示しています。ここでいう横領とは、「ほぼ100%遺失物等横領であり、その大半は放置自転車の乗り逃げ」だそうです。(p.118)
犯罪白書を自分の目でみて、自分の頭で考えた結果は、上に書いた通り「少年犯罪が増加、凶悪化しているとは、少なくとも一概には言えない」というものですが、それ以外の資料も見てみました。
雑誌に掲載されていた警察庁の「少年非行等の概要」を見ました。そのグラフを見ると、過去数年間に少年凶悪犯が大きく増大しているように見えます。
凶悪犯の推移(補導人員)として、93年が1,144、95年が1,291、97年が2,263となっています。(白書の統計とは異なるようですが、検挙と補導の違いなのか、凶悪犯の分類の問題なのか、よくわかりませんでした。)
島根警察のHP「異界にすんでいる子供たち」の「第1、少年による凶悪事件の増加」や「第5、現代における少年事件の特徴と傾向」を見ると、凶悪な少年犯罪が増えているように思えます。
ここでは、このホームページ独自の分析なども行っているようです。お忙しい中での大変な作業に、本当に頭の下がる思いです。
ただ、前に述べた「少年非行Q&A」での解釈(少年の凶悪犯の数に大きな動きはない)と、どのように整合するのかが、分かりにくいとも思われます。凶悪犯の数は増えていないが、凶悪犯罪の内容がより凶悪なものに変質化しているということでしょうか。
ここで述べられているように、殺人の中でも特に悪質なものはあるでしょう。ただ、たとえば沈着冷静で返り血を浴びるようなこともない殺人と、怒りや悲しみに我を忘れ、自分の将来のことなど考える余裕もなく、部屋中血だらけにしてしまった殺人、グループ間の抗争、あるいは親族殺人などと、いったいどちらが本当に悪質で凶悪な殺人なのか、私にはよくわかりません。
Q28 「近年、少年非行が凶悪化しているといわれていますが、現状はどうなっていますか」
A 「〜長期間にわたっておおむね減少ないし横ばいの傾向が続いており、近年の数値も、ピーク時と比較すれば低い水準にあると言えます。」と述べると同時に、平成になってからの強盗の増加を指摘し、強盗の増加は最近の少年非行の大きな特徴だと述べています。またこの強盗の多くは、路上での強盗のようです。
(強盗に関しては、個々の事件を「強盗」に分類するかどうかが場合によっては微妙であり、統計における「強盗」の分類に疑問を持つ人もいるようです)
Q52 「〜殺人等の凶悪な犯罪を犯した少年の予後(再犯率など)はどうなっていますか」
A 「凶悪事犯で保護処分になった者の予後は、その他のものと比較して概して悪くないといえます」
なお、同書97年版は、「殺人・強盗に係る少年〜その再犯は道路交通法違反や業務上過失致死傷害などの交通事犯が大半を占め、再び殺人・強盗を犯した者は、強盗に係る仮出獄者(73人)のうち3人(4.1%)のみです。」と述べています。(注)
守屋克彦著 1998
「少年事件の中心である刑法犯検挙人員は、〜減少傾向を示しており、〜検挙人員の比率を表す人口比も〜穏やかに減少してきた傾向が明らかになっている。」p.5
「殺人、放火、強姦などが減少している傾向がめだつ」「〜が、平成7年になって傷害致死や強盗傷人の非行が目立っている。」「件数が少ないので、一般化は難しいが、多人数による〜暴行が目につく〜非行の手口の変化の例である」p.6
再犯率に関しては、かつて昭和30年代、少年院仮退院者の再犯率は異常に高かったそうですが、現在では、保護観察になった少年も、少年院を仮退院した少年も再犯率が下がっているそうです。
犯罪白書(7年版)によれば、「悪質・重大」な犯罪で少年院に入った少年の再犯率は「1.5%に過ぎないという調査結果を明らかに」しているそうです。
私も今回、初めてよくわかりましたが、かつては今よりずっと多く、毎年何百人もの少年殺人犯、何千人もの少年強盗犯や少年強姦犯が生まれ、彼らは少年法による裁きを受け、そして今は、大人として社会にいるのですね。
犯罪白書を見るかぎり、少年犯罪が増加、凶悪化しているとは、少なくとも一概には言えないと思います。
しかし、どのような犯罪をどの時点とどの時点で比較するかによって、判断は違ってくるでしょう。また、立場の違いによっても解釈は違ってくるでしょう。
・立場の違い
たとえば、法務省関連の統計よりも、警察関連の統計の方が、少年犯罪が増加、凶悪化(悪質化)しているという印象を与えるように思います。この理由としては、立場の違いがあるように思います。
現場の方々にとっては、たとえばこの数年の強盗の増加は、大きな問題であり、対処が迫られます。一方、少年犯罪の動向や少年法の改正などを考えるときには、もっと大局的な見方が必要とされるのではないでしょうか。
この二つの見方は、どちらか一方だけが正しいのではなく、両方の見方が必要なのだと思います。
私は、少年犯罪が増加、凶悪化していると主張するつもりはありません。しかし、ずっと減少してきた少年犯罪が下げ止まってきたようには思います。私たちに衝撃を与える凶悪事件も起こっています。「少年犯罪Q&A」が指摘しているような少年犯罪の内容の悪質化も危惧しています。自転車泥棒のような犯罪が増えている(「横領」が増加している)ことも、大きな問題です。真剣に考え、対処していく必要があると思います。
このような近年の少年犯罪に対応して、警察、学校、地域社会などが、少年の健全な育成と市民を守るための様々な工夫を考えることには、賛成です。
・統計の限界
統計を無視することは賢明だとは思いませんけれども、統計には限界もあるでしょう。犯罪統計の数字はわかっても、実数はだれにもわかりません。
さらに、昭和40年に検挙された少年殺人犯が370人、平成8年が97人、そして将来、年間わずか数名になったとしましょう。あるいは凶悪犯の再犯率が0.1%になったとしましょう。
統計的に見れば、素晴らしい数字です。しかし、被害者や遺族にとってみれば、統計などは関係なく、大きな悲しみであることには違いはありません。統計とは、しょせんそんなものでしょう。
・結論
しかし、もしも「少年犯罪は増加、凶悪化している、だから、少年法を変えなくてはいけない」と考えている方がいらっしゃれば、その前提である「少年犯罪の増加、凶悪化」には、統計資料を見たかぎり、大きな疑問があります。
また、凶悪事件を起こした少年の再犯率が高い(更生できない)とお考えの方がいらっしゃるとすれば、再犯率の統計を見るかぎり、それも誤解のように思えます。
少年法の改正は、長く論議されてきたことであり、現在の少年法にも様々な問題があるでしょう(少年が非行事実を否認した場合や被害者保護の問題など)。今回の神戸の事件をきっかけにより良い論議をすることは、社会のためにも、犠牲者の死を無駄にしないためにも、大切なことだと思います。
ただし、今の少年たちが起こしている殺人や強盗よりも、今の大人たちが少年だったときに起こした殺人や強盗の方が、実はずっと数が多いことは、忘れるべきではないと思っています。
*どのようなご意見、お立場の方々とも、互いに成長しあい、少しでも社会に貢献できるような議論ができることを、心から願っています*
長文にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
碓井真史
注)〜再び殺人・強盗を犯した者は、強盗に係る仮出獄者(73人)のうち3人(4.1%)のみです。」は、少年ではなく、成人の話でした。お詫びして訂正いたします。
以下の資料との混乱でした。
法務省によると、65年以後、殺人や強盗などの凶悪事件を起こした年少少年(14、15才)40人のうち、再び凶悪事件を起こしたのは、強盗致傷を起こした1人(2.5%)だけだったそうです。
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