心理学総合案内こころの散歩道 /自殺の心理/硫化水素自殺2(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科・ 碓井真史)
2008.4.24(4.25補足、4.26補足)
ウェブマスター碓井のコメント録画が「報道ステーション」(4.24)で放送されました
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
大きな自殺報道、センセーショナルな自殺報道あると、まるで伝染病が広がっていくように、自殺は伝染していきます(群発自殺、連鎖自殺)。
だから、注意が必要です。
マスメディアは、
○センセーショナルな報道の仕方をしない。
○自殺方法を具体的に伝えない。(日本文化には切腹など自殺を美化する側面もありますが、)
○自殺を美化するような報道はしない。亡くなった方を悪く言うことはできませんし、事実、亡くなる方のほとんどは、真面目で誠実な方々です。しかし、それでも、自殺してよかったと受け止められかねない報道は禁物です。どんなりっぱな方でも、潔(いさぎよ)い最期と称える人がいたとしても、やはり自殺はとても残念なことです。
ですから、まるで自殺して結果的に丸く収まったと言っているような報道は厳禁です。たとえば、いじめられっ子が自殺する。何てかわいそうな子だ、良い子だったのに、とみんなの同情が集まる。いじめっ子は悪者だ、逮捕して懲らしめろというわけで少年院に入った。めでたし。めでたし。と言っているかのような報道は決してしてはいけません。自殺はやはりとても残念な出来事なのです。
それに、実際の自殺は様々な要因がからんで発生します。「いじめ自殺」とか「リストラ自殺」のような単純化したストリーを作って報道するのは事実と異なりますし、また、いじめやリストラにあっている人々の自殺の危険性を高めます。
しかし、だから報道するなと言っているのではありません。
もし報道しなければ、今度は「報道しない」ということが社会にもたらす様々な危険性が生じます。そこで、上記のようなことに注意しようというわけです。そして、
○大きな自殺報道をするときには、必ず自殺予防に関する具体的情報も伝えなければならない。
こういったことを、みんなの共通認識として持っていたいと思います。
外部リンク
日本臨床心理士会「自殺に関する報道についてのお願い」について
WHOによる自殺予防の手引きpdf 時差つぼ防止対策の実態研究BOOK
『群発自殺―流行を防ぎ、模倣を止める』 中公新書 高橋 祥友著
自殺は伝染しますが、伝染病を予防できるように、自殺の伝染も防げます。
報道された亡くなられた方と同じような悩みを持った人が近くにいれば、要注意です。ぜひ、一言かけてください。
親御さんや、先生方は、自殺は伝染する可能性があると自覚され、あなたの周りの青少年を見てください。
そして、話を聞いてください。
死にたい思いを語った時に、
「そんなことを言うな」「死んで花実が咲くものか」などと簡単に言わず、
その人の話を聞いてください。
「死にたい」という言葉だけではなく、「消えたい」とか「いなくなりたい」といった言葉も同じです。
誰でも、こんなことを突然言われたら、動揺し、不安になります。人は不安になると正論を吐きたくなります。「死んではだめだ」「生きていれば良いことがある」などと。正論を言っているうちに、自分が落ち着いてきます。そうすれば、「分ったね、死ぬんじゃないよ」と」言い残して去るわけです。
悲しみ、絶望、孤独感のどん底にある人は、こんな話を聞いてもなかなか心ははれません。それどころか、「ああ、この人も、私の苦しみを理解してくれないのか」とさらにさびしくなるでしょう。
暗い話を聞くのは、聞くほうもエネルギーが要ります。しかし、話を聞く態度こそ必要なのです。
理詰めで説得しようとするのではなく、話を聞き、共感し、あなたが死んだら私は悲しいという気持ちを素直に伝えることが大切だと思うのです。
「死なないで」とか「自殺はだめだ」と言ってはいけないというのではありません。ただ、単純に善悪の判断をして、相手を黙らせるのではなく、その人と共に歩む姿勢で会話を続けましょう。
今は心が弱っていて、あなたがどんなに感動的な話をしても、相手は心を動かさないかもしれません。でも、それでもいいのです。ともかく今日自殺を思いとどまれば、また明日は来るのです。
当サイト内の関連ページ
若者たちの硫化水素自殺が続いています。
青年の自殺は、もちろん本人は真剣に死にたい思いを思っていますけれども、その心の奥底にある思いは、「生きたい」「幸せになりたい」です。
若者の「死にたい」は、心の奥底の叫びでは、「生きたい」なのです。
だから、若者は、ただ死ねばいいとは思わず、死に方にこだわります。
楽に、美しく、さびしくなく死にたいと。
若者は、本当は、問題解決を願っています。でも、その方法がわからず、「楽になりたい」と考え、自殺を考えるのかもしれません。
若者の自殺は、命をかけた人生最後の賭けだという人もいます。問題が解決すれば、賭けに勝ち、そのまま死んでしまえば賭けに負けたことになります。
若者は、本当は幸せを願っています。
だから、自殺は予防できるし、予防すべきだと思います。
インターネットが普及し始めた当初から、ネット上には自殺の話題がたくさんありました。当サイトが開設された10年前に「自殺」のキーワードで検索をかけると、自殺の方法といったページがたくさん出てきました。私はこれはいけないのではないかと思い、自殺と自殺予防の心理学のページを作りました。現在は、自殺で検索すると、当サイトやいのちの電話などが検索上位に上がるようです。
ネット上の問題サイトを規制することも必要かもしれませんが、それと同時に、望ましいサイトをたくさん作っていくことが必要ではないでしょうか。
***
日本では自殺を美化する文化がある一方、死をタブー視します。欧米では死を間近にした人の病室に牧師や神父がが行くのは、普通のことですが、日本で同じようにお坊さんが来ることはあまりないでしょう。死にまつわる話は、縁起でもないといって避けようとします。
死にたい思いをもっていても、話をする場所がありません。ほんとに親しい親友がいれば話せるでしょうが、そんな親友もいなければ話をする機会がありません。
そこに現れたのが、インターネットです。インターネットは本来両立しないはずの「匿名性」と「親密性」が両立する魔法の道具です。名前も知らない匿名の人同士が、まるで親友のように親密に深い話がいきなりできてしまいます。
いわゆる自殺系サイトなら、
「はじめまして。ボク死にたいです」
という現実世界ではありえない会話でもOKです。
ここに若者が飛びつき、自殺の話題も盛り上がりました。ネットは、リアル社会ではタブー視されることや、アングラな内容でも、多くの人があるまり、堂々と話せる場所なのです。
ネット上で、死にたいと話すだけなら、むしろ自殺予防の効果があると思います。しかし、きちんと管理されておらず、具体的な自殺方法や、自殺の誘いが起きてしまうと、非常に危険です。ネットによる自殺が、たくさん起きています。
自殺系サイトの掲示板では、自殺に否定的なことを言うと、その人が「荒らし」と呼ばれたりします。それは、阪神タイガースのファンサイトで巨人軍を応援するようなものです。追い出されるでしょう。このように、ネット上で自殺を肯定する、少なくとも否定しない人々が集まって場所で、自殺にブレーキをかけることは難しいことになるでしょう。
当サイト内の関連ページ
ネット集団自殺の心理(自殺系サイト問題)
インターネットコミュニケーションの心理学
ネット上では、硫化水素自殺に関する情報が飛び交っています。
真剣な思いで、死を考え、硫化水素自殺について語っている人もいるでしょう。
面白半分で語っている人もいるでしょう。
まるでヒーローのように、自分の知識を伝えている人もいるように思います。
遊び、冗談、ゲーム感覚で、語り合っている人もいるでしょう。
楽で、簡単で、きれいだという情報を流している人たちもいます。
でも、そんなに簡単ではないよと、伝えたいと思います。
***
若者は、楽にきれいに死にたいと死に方にこだわります。普通は、楽にきれいに死ぬためには、準備も大変です。ところが、ネット、そして今回の場合は特に、簡単に情報にアクセスでき、必要な道具も日常的に買えるものです。
誤った情報も流れているわけですが、しかし死にたい若者たちの心情とニーズにぴたりとあってしまったのが、今回のケースでしょう。
ネット上では硫化水素自殺でずいぶん盛り上がっているページもあります。異常な盛り上がりです。まるで人気のあるゲームの攻略法をみんなで話し合っているような感じすらします。そのような興奮の中で、硫化水素自殺を考える人もいるかもしれません。面白半分に硫化水素を発生させてしまう人も出かねません。
硫化水素自殺に関するたくさんの投稿にあふれ、集団自殺の誘いまでる掲示板で、ある人がこんなことを言っていました。
「集団自殺でなくても、同時多発自殺なら孤独感は癒せるかもしれません」
若者は、苦しくなく、美しく、簡単な方法で、できればさびしくなく、確実に死にたいといいます。その思いを実現させてくれるのが、硫化水素だと誤解している人もたくさんいるようです。
そんなことありません。苦しむことも多くあります。周りを巻き込み大騒ぎになれば、少しも美しくありません。死に切れず後遺症に苦しむ人もいます。同時多発ならさびしくないなんて、思い込みの、嘘っぱちです。
楽にきれいに死にたいと願っていても、そのためにはお金や時間や知識や労力がかかるでしょう。楽にきれいに死にたいと願いつつも、そのためのエネルギーが足らずに自殺を先伸ばしにしているうちに、心の不調もやわらぎ、結果的に自殺せずに、その後は幸せになっている人もたくさんいます。
自殺志願者の心は揺れています。小さなきっかけが自殺を誘発することもあれば、自殺を押しとどめることもあるでしょう。
今回、自殺された方々の中には、ネットで硫化水素に関する情報を得なければ死なずに済んだ人がいたはずです。
とても残念です。
自殺志願者の心は揺れていますから、ネット上のある情報で死を考えるかもしれませんし、同じようにある情報、ある言葉で、思いとどまるかもしれません。
現実世界のあなたの一言が、自殺を思いとどまらせるかもしれません。
(若者は「失敗しないように確実に死にたい」と願い、そう言います。しかし、深層心理的には「生きたい」と願っているので、楽に美しく眠るような死に方を求めて、結果的に時間のかかる死に方を選ぶことが多いようです。そのため、たとえば薬を飲んで意識がない状態で救い出される、自殺は未遂で終わるという形が、今までは良く見られました。)
当サイト内の関連ページ
ネット上の情報を見た中学生の硫化水素自殺も起きています。
ネット上の情報を危険性があればすべて制限しろとは思いません。法に反していなければ、表現の自由があり、自己責任で使うべきでしょう。(道義的問題はあるかもしれませんが)
しかし、自己責任の世界だということは、ネットは基本的には大人の世界なのだと思います。
現状では、子どもが子供用の自転車に乗って、高速道路に入って走っているようなものです。
現実の道路では、自転車は高速道路に入れませんし、またもしの子どもの自転車が交通量の激しい車道を走っていれば、車のドライバーも注意するでしょう。
ところが、インターネットでは、中学生でも小学生でも、いろんなサイトに入れます。子どもが入っていても、管理者も他の参加者のそれに気づかないこともあるでしょう。気づいても、匿名世界であるゆえに、まったく気をつけない大人もいるでしょう。
自転車が高速道路に入れないようになっているように、インターネットでもフェイルたーをかけたり、インターネットにつながっているパソコンは子ども部屋に置かずリビングに置くといった工夫も必要でしょう。
しかし、それだけでは不十分です。
子どもを交通事故から守り、交通安全教育をしてきたように、子どもをネットから守り、ネット教育をしていく必要があると思います。
交通事故も、法律の整備や安全装置の開発、道路の整備も大切ですが、結局は交通安全教育が交通事故を減らしていくと言われています。
ネットの使い方、すばらしさ、活用の仕方と共に、危険性やルールを伝えていきましょう。
***
子ども、思春期の自殺について
若者ではなく子どもの自殺の場合は、死の意味をよく理解していないために、小さなきっかけで発作的に死を選ぶことがあます。また若者のように時間のかかる死に方ではなく、すぐに死に至る方法も使うようです。
思春期の少年少女の場合、周囲、友人からの影響を特に受けやすいことがあります。今まででも、死にたいと語る友人と一緒に、自殺をしてしまった「同情自殺」とでもいえるようなケースもありました。
当サイト内の関連ページ
インターネットコミュニケーションの心理学
子どもの自殺、その特長
ご遺族からの投稿
当サイトの読者 投稿欄(掲示板)に次のような投稿がありました。(4.26)
「妹が自殺しました」
投稿日:2008/04/26 00:10
少し前に妹が自殺しました。
まだ20代前半の若い妹です。
ネットで硫化水素自殺を知り、楽に死ねる方法と考え自殺したようです。
死体は土の様な色をしていました。
歯を食いしばっていました。
きっと苦しかったんだと思います。
綺麗に死ねるなんて嘘です。
苦しくないなんて嘘です。
自殺した人をずっと見ていた人なんて誰もいません。
自殺した人が「苦しくなかったよ」なんて言ってくれません。
死体を見たから分かります。
悲惨な死に方です。
妹の遺品からは、まだ硫黄の匂いが消えません。
このサイトを運営されている方のように、自殺を食い止めようとする人がいることに救いを感じます。
自殺を考えている人が、自殺の方法を書いたサイトよりも、このようなサイトに来ることが出来るように願います。
管理者からの返信
こんにちは。
とてもお辛い中、ご投稿下さいまして、
ありがとうございました。
妹さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
きっと真面目で一生懸命で、
ご家族みんなに愛されてきた
すてきな妹さんだったことでしょう。
テレビや新聞のニュースは、正直申しまして、
どこか遠くの出来事のように感じることもあります。
今月だけで何十人が、といったニュースも、
本当は一人一人の人生があるはずなのに、
その数字に驚きつつも、
何か統計の数字として感じてしまう部分もあります。
けれども、こうしてご遺族のお話をうかがうと、
亡くなられた方とご家族の、
痛み、悲しみ、お辛さが、胸に迫ってきます。
多少なりともネットに関わり、
心理学を職業にし、
メディアにも関わっているものとして、
自分自身への怒りと無力さを強く感じます。
お辛い中、こうして頂いたご投稿は、
きっと硫化水素を使おうと考えている人への
ブレーキになることと思います。
多くの方々に読んでいただければと願っています。
遺された方々のお心は、
どれほど傷つき、苦しまれたかと存じます。
ご家族の皆様の心が癒されますように。お祈りしております。
![]()
Tweet
硫化水素自殺を考えているあなたへ (硫化水素自殺を考えている方へのメッセージの形をとっていますが、自殺予防に関心のおありの方もどうぞご覧ください。)
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
心理学総合案内「こころの散歩道」 へ戻る
アクセス数3000万の心理学定番サイトサイト内全文検索