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形骸を断ずる

文芸評論家の江藤淳さんの自殺から考える

99.8.2(03.6.9に一部加筆修正)(再修正04.2.17)
修正前の内容はこちら

99.7.21、戦後日本を代表する文芸評論家の江藤淳さんが、妻の死や病気を苦にして自殺しました。自宅に遺書を残していました。

 「心身の不自由が進み、病苦が堪え難し。去る六月十日、脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は、形骸に過ぎず、自ら処決して形骸を断ずる所以なり。乞う、諸君よ、これを諒とせられよ。平成十一年七月二十一日 江藤淳」

 たしかに名文です。「すばらしい」遺書です。「形骸を断ずる」。「名ゼリフ」だと私も思います。

 この言葉を見出しに使った新聞もありましたし、多くのマスコミが遺書の全文を紹介していました。

 しかし、自殺に名ゼリフも名所もいりません。マスコミによって自殺がセンセーショナルに報道され、名ゼリフや名所が作られてしまうと、次の自殺を誘発してしまうからです。(このようにして、ある自殺が大きく報道された後に増加してしまう自殺を「群発自殺」と言います。)

 むかし、「人生は不可解なり」と言って日光の華厳の滝から飛び降りた人がいました。その後、まねをする人が何人も出たそうです。

 以前、ある大きな団地で飛び降り自殺が相次ぎ、困ったことがありました。

 有名人の自殺や派手な自殺報道があると、連鎖的に自殺が増えてしまいます。ましてや、自殺の「名所」や「名ゼリフ」などができてしまうと、まねをする人が出ます。自殺の名所や名ゼリフを作らないことが、新たな自殺を防止するために重要です。

 たしかに、死者にむち打つようなことはできません。

ましてや、故人を中傷するようなことは決してしてはいけません。それは、故人の名誉を汚し、ご遺族に対して失礼なだけではなく、同じような悩みを抱えている人々の心をさらに追い詰めてしまうことになるからです。

(江藤淳さんは、文芸評論家として、また人間として、すばらしい方です。尊敬できる方です。真剣にご家族のことを考え、ご自分の生と死を考えられたことでしょう。)

また、報道する側としては、名ゼリフを見出しなどに使いたいと感じるのも無理の無いことです。(このページもそうしていますから。)しかし、自殺の名ゼリフ作ってしまうことが自殺の誘発に関してどんな危険性を持つ可能性があるのかを、忘れてはいけません。

(大きな自殺報道をする際には、群発自殺を防ぐための配慮が必要です。)

たとえその人が、生前どんなに立派な人であっても、自殺予防の観点から見れば、自殺を美化しかねない報道は、十分に気をつけなくてはなりません。自殺を美化してしまうことが、次の自殺を招くことになるからです。


* 映画監督の伊丹十三さんが自殺したとき、伊丹映画に出演していた俳優のキンゾーさんが、インタビューに答えて、泣きながら次のように言っていました。

「監督には、本当にお世話になった。素晴らしい人だった。けれども、自殺という死に方は、カッコ悪いですよ。」

とても見識のある言葉だと私は思います。

 伊丹十三さんは、映画監督としてすばらしい人です。人間的にも尊敬できる人です。キンゾーさんは、そのことをとてもよくわかっています。彼は、監督に深い恩義を感じ、また監督の死を心から悲しみ、泣きながら答えているのです。

そのキンゾーさんが言う「カッコ悪い」という言葉は、決して監督を侮辱する言葉などではありません。死んでほしくなかった、残念でならないと言う心の叫びでしょう。

 監督のことが大好きで、尊敬をしていた彼は、監督にもっと生きていて欲しかったことでしょう。(そして、たとえ善意であっても、自殺を美化しかねない不用意な言葉をテレビカメラの前で言ってしまうことの危険性を、もしかしたら感じていたのかもしれません。)

 才能豊かで、みんなに愛され、尊敬されてきた人。最期にに名言を残せるほどの、すばらしい人。その死に方も立派だったと、私も言いたくなってしまいます。

 しかし、次の新たな自殺を誘発しないために、あえて、言います。

  一見、美しく、潔く、カッコイイ自殺だとしても、立派だとは思えません。その反対に、一見、惨めで、未練たらしくて、カッコ悪く見えたとしても、最後までい生き抜くほうが、ずっと素晴らしいことだと思うのです。

(このような言い方は、自殺防止という上記のような理由があるとしても、それでもなおご遺族の方々には失礼で、申し訳ないとも思います。しかし、尊敬すべき立派な方々は、きっと、自分の自殺に誘発されて自殺が増えることなど望んではいないと、私は信じています。)

(また、さらに話を進めれば、尊厳死の問題など、複雑な問題はあるでしょう。でも、もともと自殺を美化しやすい日本の文化の中で、そしていま毎年三万人もの人が自殺している現状で、やはり私は、自殺を美化し、正当化するようなコメントは避けたいと考えています。)

江藤淳さんを悼む(毎日新聞)

今、死を考えているあなたへ。

ね、最期の最期まで生きようよ。

たとえかっこ悪くても、

最後までじたばたしようよ

(このページは、2003.6.9に一部加筆修正しました。そのきっかけとなった読者とのメールの交換については、次のページをご参照ください。)(再修正04.2.17)
形骸を断ずる・どうして生きることを勧めるのですか・読者とのメール交換


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自殺といのちについて考える全てのひとのために


江藤淳氏に関する本
中高年の自殺を防ぐ本
群発自殺―流行を防ぎ、模倣を止める (中公新書)


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